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【被殻出血ってなに?】〜動きが止められないのはなぜ?〜

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◆ 「最近、動きが変なんです」――それ、脳からのサインかもしれません

「歩き出すと止まれない」「手を伸ばしたら突っ張ってしまう」「立っちゃダメだとわかっているのに、急に立ってしまった」「周りが気になってキョロキョロしてしまい、集中できない」

こうしたお悩みを抱える患者様がいらっしゃいます。実はこれ、「被殻出血(ひかくしゅっけつ)」と呼ばれる脳出血が原因で起こることがあります。

今回は、「動きすぎてしまう」「動きを止められない」という状態がなぜ起きるのか、どのように向き合っていくのかを、患者様にもわかりやすくご説明します。


◆ 被殻出血ってどんな脳の病気?

被殻とは、脳の奥にある「大脳基底核」という場所の一部です。この大脳基底核は、運動の「準備・調整・ストップ」を担当しています。

被殻に出血が起こると…

  • 必要な動きだけを選ぶ力

  • 動きをやめる力(抑制)

  • スムーズな切り替え

これらがうまくいかなくなります。

たとえば、車でいえばアクセルを踏みっぱなしでブレーキが効かないような状態。それが「抑制できない動き」として現れるのです。


◆ 「動きが止まらない」ってどういうこと?

以下は、実際の患者様の例です。

【例1】トイレでの立ち上がり

座ったままでいてほしい場面なのに、「立ってしまった」→ 本人は「立たなきゃ」と思っていないのに、身体が勝手に動いてしまうのです。

【例2】歩行時の止まりにくさ

「止まろう」と思っても、足が前に出続けてしまう→ 転倒リスクが高まります。

【例3】視線がキョロキョロする(サッケードの異常)

→ 本人の意思とは関係なく目が動いてしまい、テレビや本に集中できない。

【例4】手足の突っ張り

→ 手を伸ばそうとしても途中でガクガク。筋肉に「抜け」がないため、動きが硬くなる。

これらすべてに共通しているのが、「動きを始める/止める」というコントロールが難しくなるという特徴です。


◆ 被殻の役割って?

被殻は「動きのスタートボタン」と「ストップボタン」の両方を調整しています。

この被殻は、大脳基底核の中で「運動ループ」や「眼球運動ループ」と呼ばれる回路の中心部分です。

  • 「運動ループ」:手足の動きを調整します。

  • 「眼球運動ループ」:目の動きをコントロールします。

これらが正常に働いていれば、私たちは必要な時だけ動き、不要な動きは止めることができます。でも、被殻出血があると、こうした機能がうまく働かず、意図しない運動や突発的な動きが出てしまうのです。


◆ なぜ「動かない」麻痺も起きるの?

「動きすぎる障害」だけでなく、「動かない麻痺」も一緒に起こる方もいます。

それはなぜか?

被殻のすぐそばには、「内包(ないほう)」という神経の幹線道路があります。この内包は、脳から手足に「動け!」という命令を運ぶ通り道。出血が内包にまで広がると、その命令が手足に届かず、動かなくなってしまうのです。

つまり:

障害部位

起こる症状

被殻(大脳基底核)

動きが止まらない、抑制できない

内包

手足の麻痺、動かない

このように、同じ出血でも広がる場所によって症状が異なるため、リハビリでも注意が必要になります。


◆ リハビリで意識すべきこと

抑制できない動きは、「力を入れる」練習だけでは改善しません。

●「やめる」練習をする

→ たとえば、肘を曲げたあと「スッと止める」→ 歩いていて、止まるタイミングで足をピタッと止める

●「視線を固定」する練習

→ 一点を見続ける、ゆっくり目を動かすなど

●「注意の向け方」を調整する

→ 急な音や動きで過剰に反応しないよう、環境調整も含めて支援します。


◆ まとめ:動きすぎる自分を責めないでください

動きが止まらないのは、「意思が弱いから」でも「集中力がないから」でもありません。脳の調整機能が障害された結果として起きるものです。

「動く」「止まる」だけでなく、「今必要な動きは何か?」を脳にもう一度思い出させていく、それがリハビリの大きな目標になります。

一緒に少しずつ、「動きすぎない自分」を取り戻していきましょう。



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被殻出血/脳出血/抑制障害/リハビリ/運動ループ/眼球運動ループ/動きが止まらない/集中できない/視線が安定しない

 
 
 

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